母子の怨みが残る大円寺の蚊帳と井戸の火の玉
どんな伝承か
錦見の中村に、寡婦とその娘、息子の原三保助の三人が住んでいた。娘に冷たくされた男が恨み、夏の夜に忍び込んで蚊帳の中の母と姉を刺し殺した。十四、五歳の三保助は刀を取って追ったが見失い、翌朝、男は井戸に身を投げて死んでいた。血に染まった蚊帳は洗っても、中で寝ると母子が周りを回って眠れないと買い手から次々に返され、ついに大円寺に納められた。年月を経て、寺に泊まった屋根葺きの妻がこの蚊帳で寝ると、風もないのに四方が揺れ動いたという。また母子の住んだ跡の井戸からは時々火の玉が出て、北へ飛んで行くと伝わる。
原典より
原三保助 卒が母、寡にて三保助と其姉と三人、錦見の中村に住ひけるが、姉、いひ替したる男を、何故にや、すげなく扱ひたるより、男は怒りて、母子相談にてあざ心出しならんと、或夜、窃に入来り、折角夏なれば、蚊帳に母子三人臥し居た…—— 岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年))
『岩邑怪談録』は、岩国藩士広瀬喜尚の怪談録に後人の増補と続録を合わせ、岩国徴古館が昭和五十一年に発行した資料集である。岩国周辺で人々が出会った化物・大坊主・生首・怪火・狐狸・天狗倒し・幽霊などの話を収め、藤田葆が編んだ『岩国沿革志』のうちの二冊を底本に、なるべく原文のまま新字に改めて載せる。広瀬の本録に、今田純一の追加、藤田の続怪談録と実事談・変死、静間密の付録五話を続け、巻末に語注を付す。