松尾の大坂で泣く白い女の霊
どんな伝承か
多田という所に社がある。その神主の有明が在郷(今の藤谷)へ行った帰り道、日が暮れて、松尾という大坂を通ったとき、向こうに白いものが風にひらめいた。怪しいと思って歩み寄って見ると、女の霊と見えて、ただ一人さめざめと泣いている。そのとき神主は目を塞ぎ、心に本荘八幡を観念した。すると女はかき消すように失せた。神主は坂本の宿に駆けつけ、我を忘れて水を飲んだということである。
原典より
神主有明宮地、在郷蓋シ、今ノ藤谷・へ行ける帰り道にて夜に入り、松尾とて大坂あるを通りし時、向ふに白き物、風にひらつきける。—— 岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年))
『岩邑怪談録』は、岩国藩士広瀬喜尚の怪談録に後人の増補と続録を合わせ、岩国徴古館が昭和五十一年に発行した資料集である。岩国周辺で人々が出会った化物・大坊主・生首・怪火・狐狸・天狗倒し・幽霊などの話を収め、藤田葆が編んだ『岩国沿革志』のうちの二冊を底本に、なるべく原文のまま新字に改めて載せる。広瀬の本録に、今田純一の追加、藤田の続怪談録と実事談・変死、静間密の付録五話を続け、巻末に語注を付す。