望月楼に出る心中した遊女チルーの霊
どんな伝承か
那覇の辻遊廓の望月楼に、県庁の若い独身官吏と恋仲になって他の客を取らなくなった遊女チルーがいた。女将に折檻され、男の登楼も禁じられた二人は、ある夜一日橋から身を投げて心中し、以来望月楼にはチルーの亡霊が出た。ある真夏の夜、五年ぶりに帰省した那覇出身の琴の師匠富永元一郎が、鞍替えしたばかりの遊女カマルーを訪ねて二階の部屋で飲んでいると、洗い髪の遊女が部屋に入るのを見たが誰もいない。床に就くと蚊帳の外に同じ女が座り、男の帽子を取ってくれと頼み、のしかかったり足を引いたりした。そこはチルーの部屋で、前夜が命日だったと女将は嘆いた。
原典より
ふと、顔を横に向けて、蚊帳のそとを見たとき、暗闇のなかに、さきほどの洗い髪の女が、俯(うつむ)いて坐っているのが、はっきり見えた。—— 沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲)
『沖縄怪談集 逆立ち幽霊』は、石垣島で育った詩人の伊波南哲が、新聞や雑誌に書いた話と書きおろしを合わせ、沖縄の怪談を物語風に綴った怪談集である。那覇の辻遊廓や一日橋、首里、石垣島・竹富島などを舞台に、遊女や捨てられた女の幽霊、遺念火、キジムナー、お化け封じの術を描き、戦後のタクシー幽霊の噂や東京で起きた位牌の嫁入りの話も取り上げる。題を付けた二十二話のあとに「怪談断片集」を置き、少年時代を語る「果たして幽霊はいるのか」で結ぶ。