鼻に銀のカンザシが刺さった遊女の亡霊
どんな伝承か
那覇の辻遊廓の香々小での話。ある真夏の夜、馴染のカマルーと寝ていた新垣が真夜中に目を覚まし煙草に火をつけると、長火鉢のそばに後ろ向きの女が座っていた。声をかけても答えず、怒鳴るとおもむろに振り向いたその顔は凄まじく、鼻には銀のカンザシが横に突き刺さっていた。女将は、若い頃この香々小にいたチルーという美しい遊女の簪を借りたまま返し忘れ、出棺間際に棺へ投げ入れたことを思い出す。ちょうど十三年目の命日で洗骨もしていなかった。墓を開くと簪は鼻骨に錆びついていた。
原典より
うしろにふり向いた女の顔はものすごく、鼻には銀のカンザシが横に突き刺さって、怖い眼でにらみつけたからであった。—— 沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲)
『沖縄怪談集 逆立ち幽霊』は、石垣島で育った詩人の伊波南哲が、新聞や雑誌に書いた話と書きおろしを合わせ、沖縄の怪談を物語風に綴った怪談集である。那覇の辻遊廓や一日橋、首里、石垣島・竹富島などを舞台に、遊女や捨てられた女の幽霊、遺念火、キジムナー、お化け封じの術を描き、戦後のタクシー幽霊の噂や東京で起きた位牌の嫁入りの話も取り上げる。題を付けた二十二話のあとに「怪談断片集」を置き、少年時代を語る「果たして幽霊はいるのか」で結ぶ。