病人の着物を用いた間接祈祷
どんな伝承か
勝浦町のある部落の六十五歳の男性は、右の手首にできた腫れ物の原因が町の医者三人にも分からず、小松島市内の病院で手術を受けたが、傷口がふさがっても痛みと膿が止まらなかった。妻が小松島市内の祈祷所に相談すると犬神が憑いていると言われ、夫のふだん着を持っていって祈祷してもらった。祈祷師が障子を少し開けると犬神が乗り移り、身ぶりが近所のお婆さんそっくりになった。妻が問いただすと、犬神は自分の家は縁の下に犬の子があふれて居づらい、三年ほど前から来ている、信心しない家は居心地がよいなどと答え、帰ってくれと頼むと承知した。こうして犬神は落ちたという。
原典より
といったので、祈祷師が一度閉めた障子をまた少し開いて祈祷をすると犬神は落ちたそうである。—— 徳島の研究 第6巻 (方言・民俗篇)(徳島の研究) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
徳島の研究 第6巻 (方言・民俗篇)(徳島の研究)
『徳島の研究 第6巻 (方言・民俗篇)』は、徳島をめぐる研究叢書『徳島の研究』の方言・民俗篇の巻で、阿波の犬神を論じた一篇を収める。狸やトウビョウと並ぶ阿波の憑きものとしての犬神について、起源の伝説、正体とされる小犬や鼠、犬神筋の分布と女系の継承、憑依の動機と症状、祈祷による犬神落しを、筆者の聞き書きと室町期の下知状、郡誌や『阿波民俗』などから述べる。七節に分け、昭和期の犬神をめぐる事件と迷信打破の道で結び、末尾に参考文献の註を掲げる。