奥方の箪笥の甕の中の小犬を殺害した話
どんな伝承か
ある土地の大きな家の奥方は犬神持といわれ、夫を亡くしてからは奥の間で一人きりで食事をとっていた。あまりの大食いを怪しんだ女中がのぞくと、奥方は食べ終わるころ箪笥を開け、中のきれいな甕の上の折敷に飯を盛っていた。入るのを禁じられた部屋だったが、奥方の留守に女中が下男たちと箪笥を調べると、甕の中にはかわいい小犬がたくさんいた。下男たちは小犬をたらいに移し、女中が沸かした湯を浴びせて残らず殺した。その日奥方は出先で急にめまいを起こし、道ばたの麦畑に倒れて知人に助けられ、青ざめた顔で帰ってきたという。
原典より
するとその甕の中にはかわいらしい小犬が沢山飼ってあったので、下男衆がこれを引き出し、小犬をみんなたらいの中に入れて、女中の沸した熱湯をかけて皆殺しにしてしまった。—— 徳島の研究 第6巻 (方言・民俗篇)(徳島の研究) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
徳島の研究 第6巻 (方言・民俗篇)(徳島の研究)
『徳島の研究 第6巻 (方言・民俗篇)』は、徳島をめぐる研究叢書『徳島の研究』の方言・民俗篇の巻で、阿波の犬神を論じた一篇を収める。狸やトウビョウと並ぶ阿波の憑きものとしての犬神について、起源の伝説、正体とされる小犬や鼠、犬神筋の分布と女系の継承、憑依の動機と症状、祈祷による犬神落しを、筆者の聞き書きと室町期の下知状、郡誌や『阿波民俗』などから述べる。七節に分け、昭和期の犬神をめぐる事件と迷信打破の道で結び、末尾に参考文献の註を掲げる。