天狗の領分を告げる亀山の異石
どんな伝承か
君津郡小櫃村から久留里を経て亀山村へ向かい、一里ばかり急坂を下って谷に入り、石壁に沿って行くと、堅く黒い不思議な石が壁の中に嵌まっているのを見る。この石のあるところは天狗の領分の知らせで、里の俗に、この石を見たところから山へ入れば、きっと天狗に罰を蒙らせられるという。あたりの松山は俚俗に三つはうと呼ばれる。そこから山を十余丁のぼると白雲山に迫り、山は石壁の上へ聳えかかって天の橋をなす。堂は三間四面、向拝の飛龍の彫物は見るからに駭くばかりで、別当は草河原富士山蔵福寺、堂の脇には二間に三間の籠り堂がある。里では、ここに天狗が多く集まっており、不浄な心であれば留まることができないと言い伝えている。
原典より
君津郡小櫃村より、久留里を経て、亀山村へ行く一里ばかり、急坂を下りて谷に、石壁に副つて行くと、一の不思議な石を見ることであらう。—— 日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年))
『日本伝説叢書 上総の巻』は、藤沢衛彦が大正六年に編んだ上総国の伝説集である。夷隅・長生・山武・市原・君津の五郡にわたり、地名の由来、社寺の縁起、城と武将の事跡、大蛇や狐つきの怪異、俚謡や民間の風俗を、口碑や『総国誌』などの地誌から集める。巻頭に著者の序と緒言を置き、上総国と郡の名義を説いたのち、郡ごとに町村の所在を添えた見出しで一話ずつ並べる。