石を投げられて死んだエンコ
どんな伝承か
高知県高岡郡窪川町での話である。明治二十年代の秋の夕暮れ、床鍋で一番の力持ちといわれた男が仕事帰りに板橋へさしかかった。橋から川を見下ろすと、見たこともない獣が川上へ向かって泳いでいく。エンコに違いないと思った男は、川原の石を拾って力任せに投げつけた。手ごたえはあったが暗くなったのでそのまま帰った。翌日、橋の下流にエンコの死骸が打ち上げられたと大騒ぎになる。祟りを恐れて弓取りという行者を招き占わせると、弓に憑いた霊は、あの橋より上へ行ってはならぬという神の禁を破った罰だと語り、祟らずに去った。死骸の頭には梅干ほどの窪みがあり、指のあいだには水掻きがあったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 1 河童・天狗・神かくし(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 1 河童・天狗・神かくし』は、松谷みよ子が編んだ現代民話の資料集である。明治以降を目安に、日本民話の会の『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞書で全国から寄せられた話と、郷土誌や雑誌『旅と伝説』などからの引用を、県別に話者・回答者・出典を添えて並べ、奄美・沖縄のケンムンやブナガヤにも及ぶ。目次では河童・天狗・神かくしの三章の頭にそれぞれ「考」を置き、巻末に河童の名称、天狗・神かくし年表、あとがきを掲げる。