懇談会帰りの山道に迫る木と石の音
どんな伝承か
昭和三十年頃、私が小学校長をしていた時分のことだった。夏休みを前に、部下の教諭たちに手分けで部落懇談会へ出かけてもらった。E教諭はY部落へ出かけ、午後十時頃に懇談会が終わったので、人家のない山道を通って帰宅することになった。林の中を通りかかると、遠くで木を倒すような音や石を転がすような音が起こり、だんだん近づいてきた。生きた心地もしなかったEは、落ち着くことが大切だと考え、地べたに座って煙草を一服吸った。物すごい音はしばらく続いたが、やがて静まり、あたりには何の異常もなかった。この土地でこうした体験をした人は何人かおり、人々は天狗の仕業だと語っているという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 1 河童・天狗・神かくし(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 1 河童・天狗・神かくし』は、松谷みよ子が編んだ現代民話の資料集である。明治以降を目安に、日本民話の会の『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞書で全国から寄せられた話と、郷土誌や雑誌『旅と伝説』などからの引用を、県別に話者・回答者・出典を添えて並べ、奄美・沖縄のケンムンやブナガヤにも及ぶ。目次では河童・天狗・神かくしの三章の頭にそれぞれ「考」を置き、巻末に河童の名称、天狗・神かくし年表、あとがきを掲げる。