医者の家に居ついた天狗の悪戯
どんな伝承か
明治初年のことである。伊達郡伊達崎村の熊谷玄洋という医者の家に怪異が続いた。夜中に家鳴り震動し、空中で声が喋り、天井裏で美声の唄が聞こえる。ある朝、下女が表戸を開けると、盲縞の半纏に股引をはき、絞りの手拭で頬かぶりをした小男が鼻歌をうたいながら出て行った。神下ろしをすると天狗の仕業だという。この家はもと桑折代官所の捕吏尾崎大八郎の屋敷で、大八郎は下野の古峰神社から使いの天狗を借りて怨霊から家を守らせていた。家が売られて玄洋が移した際、天狗も家とともに移って来て悪戯していたのだという。玄洋が古峰神社に参詣し祈禱を受けると怪異はやんだ。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 1 河童・天狗・神かくし(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 1 河童・天狗・神かくし』は、松谷みよ子が編んだ現代民話の資料集である。明治以降を目安に、日本民話の会の『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞書で全国から寄せられた話と、郷土誌や雑誌『旅と伝説』などからの引用を、県別に話者・回答者・出典を添えて並べ、奄美・沖縄のケンムンやブナガヤにも及ぶ。目次では河童・天狗・神かくしの三章の頭にそれぞれ「考」を置き、巻末に河童の名称、天狗・神かくし年表、あとがきを掲げる。