暗峠の送り狼と矢立の音
どんな伝承か
生駒山地を越えて大阪と奈良を結ぶ暗峠は、木々が深く茂って昼でも薄暗く、見晴らしもきかない峠で、昔から送り狼が出ると恐れられていた。老人たちは、狼につけられたと感じても決して逃げてはならず、ご苦労さま、よろしく頼みますと声をかければ襲われないと教えた。また腰の矢立を抜いて紐を付け、地面に垂らして引きずって歩けとも言った。生駒石を敷いた道で銅や真鍮の矢立がからからと鳴り、紐が蛇のように揺れるので、狼はそれを嫌って逃げるのだという。とはいえ狼が現れると矢立を下ろす余裕もなく逃げ出して、食い殺される旅人もいたと伝わる。
原典より
佐々木君(※佐々木喜善)幼き頃、祖父と二人にて山より歸りしに、村に近き谷川の岸の上に、大なる鹿の倒れてあるを見たり。—— 現代民話考 10 狼・山犬、猫(松谷みよ子・現代民話考) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 10 狼・山犬、猫(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 10 狼・山犬、猫』は、松谷みよ子が日本民話の会の『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きで全国から集めた話を編んだ現代民話の資料集である。明治以降を目安に、狼への畏れと信仰、送り狼や千匹狼、化け猫や猫の踊り、戦中の猫の供出、水洗トイレを使う猫までを収める。序文と各章の前文に続いて「狼・山犬」「猫」の二章を主題別の節に分け、各話例の後に類話の採集地・話者・出典を「分布」として並べる。