卵を取られ水田をさまよった治平
どんな伝承か
美馬郡半田町で鶏卵の買い出しを生業にしていた治平という男が、ある日いつものように卵籠を天秤棒に下げて出かけたまま、夜が更けても帰らなかった。翌日、家族や近所の者が心当たりを探すと、道端に見覚えのある籠が捨てられ、中には割れた卵が五つ六つ残っているだけだった。治平は近くの水田に入り込み、あちこち行きつ戻りつしている。声をかけると大水で道が分からないと言い、なおも歩き回るので大勢で引っ張って帰ったが、三日ほどは正気がないまま寝ていた。狸に化かされて卵を取られたのだろうと、治平の姪が語った実話である。
原典より
手平の短歌の先生とこへ行ったとき遅なってしもうてのう、先生に送ってもろうたんやが、あっこらさぶしいとこでのう、ドブのはたにお地蔵さんがあったんえ、そのお地蔵さんの一寸向うにうどんて書いた赤いちょうちんがつっちゃあって、そ…—— 現代民話考 11 狸・むじな(松谷みよ子・現代民話考・1995年(平成7年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 11 狸・むじな(松谷みよ子・現代民話考・1995年(平成7年))
『現代民話考 11 狸・むじな』は、松谷みよ子が一九九五年(平成七年)に編んだ現代民話の資料集である。明治から現代までに各地で語られた狸・むじなの話を、聞き書き、読者の回答、郷土誌や民話集、新聞記事から集める。狸火、腹つづみ、音まね、いたずら、化かし、たたり、人助け、戦争にいった狸、今の暮しなど十二の部に分け、話例ごとに本文と類話の「分布」を添え、巻頭に序文と前文、巻末にあとがきを置く。