雨の夜に突き出る大煙管
どんな伝承か
美馬郡半田町の赤目から毛田の渡船場まで一キロ余りの間は中通前と呼ばれ、家一軒もない吉野川沿いの寂しい道である。渡しのすぐ下流は破れ石と呼ばれる急流の難所で、そこを過ぎた静かな淵には昔から身投げや難船による死者が多く、この一帯は大ぎせり(煙管をなまったもの)と呼ばれていた。小雨の夜など「待てっ」と声がかかり、一本の大きな煙管がぬっと突き出される。持っていた煙草を火皿に詰めてやれば引っ込むが、ケチって少ししか入れないと火皿で頭を伏せられ、夜明けまで身動きできなくなるという。
原典より
小雨の夜などに通っていると「待てっ」とどこからともなく声がかかって、ぬっと突き出される一本の大ぎせる・・・・・・。—— 阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年))
『阿波の怪談』は、横山春陽が昭和三十三年に編み、徳島新聞出版部から発行した郷土の怪談集である。徳島県の各地と土佐との国境の山中に伝わる山女郎、淵や池の主、カッパ、亡霊、火の玉、タヌキやキツネ、大ジャの話を、平安朝の言い伝えから藩政期、明治・大正、昭和の出来事まで、編者が古老に聞き、書物から拾って題ごとに並べる。おわりにでカッパやヘビの話の多い地域や海の話の少なさについて記す。