小勝島の島陰に立つ十二単の美女
どんな伝承か
島々の美しい橘湾で、いちばん大きな島が小勝島である。ある薄月の夜、漁火をたいて網を入れていた漁師の一人が急にうめいて舟底に伏し、震える手で島を指した。もう一人が見ると、島陰に十二単をまとった美女が立ってにこにこと笑っていた。二人は命からがら逃げ帰ったが、その後も夜遅く島の近くに出ると同じ女が見え、漁に出る者がいなくなった。正体を見届けると言って一人で出かけた村の屈強な若者は、その夜限り帰らなかった。平安朝のころの話だという。
原典より
漁火のひかりがやっと届くあたり、薄月のあかりをあびて島影に立っているのは十二ひとえに体を包んだ美女・・・・・・それがにこにこと笑っているすごさ・・・・・・。—— 阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年))
『阿波の怪談』は、横山春陽が昭和三十三年に編み、徳島新聞出版部から発行した郷土の怪談集である。徳島県の各地と土佐との国境の山中に伝わる山女郎、淵や池の主、カッパ、亡霊、火の玉、タヌキやキツネ、大ジャの話を、平安朝の言い伝えから藩政期、明治・大正、昭和の出来事まで、編者が古老に聞き、書物から拾って題ごとに並べる。おわりにでカッパやヘビの話の多い地域や海の話の少なさについて記す。