お藤がとどろの大蛇と埋まった発電所
どんな伝承か
大正のごく初めの頃、今の土佐清水市益野という在所を流れる川の奥に、水力発電所を造ることになった。当時この辺りはランプさえ珍しく、大概の家は松明で明りをとっていたので、水から火を起こす電気は中々理解されなかった。『昔から水と火は仇同士、その水から火をおこすとは理屈に合わん』という者や、『お藤がとどろ(益野川の奥の渕)の大蛇が毎年夏に川を降って浜へ出る。ダムを造れば大蛇が越えられず祟りが起きる』と反対する者もいた。電力会社は渕の大蛇に社を建て鳥居を奉納し臨時大祭で慰めて承諾を得た。二年足らずで発電所が完成したが、わずか一年余り後の大正九年の大洪水で一晩のうちに山が崩れ跡形もなくなり、年寄りたちは『お藤さんが怒ってのことだ』と言い合った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 12 写真の怪・文明開化(松谷みよ子・現代民話考(立風書房)第十二巻・1996年(平成8年))
『現代民話考 12 写真の怪・文明開化』は、松谷みよ子が一九九六年にまとめた現代民話の資料集で、同シリーズの第十二巻にあたる。雑誌での呼びかけやアンケート、聞き書きで寄せられた話と新聞・雑誌の記事を、心霊写真をめぐる怪異と、明治以降の電信・汽車・電気燈などの新しい文物や流行病に戸惑う人々の話に分けて収める。話例ごとに本文を掲げて各地の類話を分布として並べ、話者や回答者の名と出典を添える。