地蔵橋駅付近に響く狸の汽笛
どんな伝承か
徳島鉄道線が徳島から小松島へ延びたころ、勝浦郡勝占村に新しくできた地蔵橋駅のあたりでは、狸がしきりに汽車の真似をした。遠くで汽笛が鳴り、車輪や汽罐の音が本物そっくりに近づいてくるので、終列車も済んだのにと外へ出てみると、音は遠のいて消えてしまう。近くの住民ばかりか駅員までだまされ、運転中の機関手さえ惑わされた。ある時、地蔵橋駅を出て二軒屋駅へ向かう終列車の前方で激しい汽笛と走行音がし、単線なので機関手は驚いて止めたが、何も来ない。数回続いたので機関手は音だけでは止めないことにした。狸はいつもの調子で悪戯をして、止まらずに来た列車に轢かれ、以後悪戯は絶えたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。