墓参りの妻について来た亡父
どんな伝承か
現在の家に引っ越してもう二十年も過ぎたが、八十歳でこの世を去った私の父は、現在地をまったく知らない。或る年の夏、国鉄の夜勤を終えて帰宅し、仏間でもある座敷に一人寝ていると、いつのまにか夢を見ていた。余り歩けなかった父が玄関ではなく勝手口に立ち、今から堤に鯉を釣りに行くと言って、懐からパンを取り出して食べかけた。一人では危ないから俺が付いて行くと言っているとき、家内のヨネ子の、かいか、かいかという声で目が覚めた。じいちゃんが来ておられるぞと言って座布団と茶菓子をすすめると、ヨネ子は震えながらどこにいるのかと声をふるわせた。ヨネ子は天初院の裏の祖父の墓に詣って帰ったばかりであった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 4 夢の知らせ・火の玉・ぬけ出した魂(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 4 夢の知らせ・火の玉・ぬけ出した魂』は、松谷みよ子が編んだ「現代民話考」の一冊である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』のアンケートへの回答や聞き書き、新聞・雑誌の記事から集めた、予知夢や死の知らせの夢、死者や神仏の夢告げ、死の前後に出る火の玉、生きている人から抜け出す魂の話を各地から収める。三章それぞれの冒頭に編者の論考「考」を置き、項目ごとに代表的な語りと、県別に並べた短い報告を話者・回答者・出典を添えて載せる。