湯宿の子だけが見た殺人犯の背の女
どんな伝承か
明治三十年ごろの九月、白馬岳の中腹にあるれんげ温泉で、妻を亡くした宿の主人が子と囲炉裏で山鳥を焼いていると、青ざめた鳥打帽の紳士が一夜の宿を求めてきた。糸魚川から登って道に迷ったという。食事中、隣で寝ていた男の子が急に泣き叫んで客を指さし、飼い犬も激しく吠えた。主人が断ると男は震えて逃げ出した。子は、客の背に髪を振り乱した女がしがみついて笑っていたと言う。翌朝、越中で若い女を殺した犯人が山に逃げ込んだと巡査が告げ、山狩りで捕らえられた男は、女がずっと離れなかったと語った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。