夜ごと行き交う識名のイニンビー
どんな伝承か
首里にほど近い識名の村に、仲むつまじい若い夫婦がいた。妻は夕方になると那覇へ豆腐を売りに出て、夫は夜、松明をかざして迎えに行くのが毎日の習いだった。ある晩、夫は行けども妻に会えず、夜通し探し歩いたすえ、明け方に川で変わり果てた姿を見つける。妻の美しさに横恋慕した村の若者が待ち伏せて辱め、それを恥じて身を投げたのだった。夫もその夜、同じ川へ身を沈めた。以来、識名のあたりと事のあった場所とから青い火が二つ立ちのぼり、夜通し行き来するという。これを島の人は識名のイニンビー、遺念火と呼ぶ。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲)
『沖縄怪談集 逆立ち幽霊』は、石垣島で育った詩人の伊波南哲が、新聞や雑誌に書いた話と書きおろしを合わせ、沖縄の怪談を物語風に綴った怪談集である。那覇の辻遊廓や一日橋、首里、石垣島・竹富島などを舞台に、遊女や捨てられた女の幽霊、遺念火、キジムナー、お化け封じの術を描き、戦後のタクシー幽霊の噂や東京で起きた位牌の嫁入りの話も取り上げる。題を付けた二十二話のあとに「怪談断片集」を置き、少年時代を語る「果たして幽霊はいるのか」で結ぶ。