宿の鏡の裏に立つ痩せ衰えた老人
どんな伝承か
八月の初旬、郷里の八戸を発って青森・秋田・岩手を巡る修学旅行に出た七人が、野辺地の宿屋に泊まった。野辺地は南部から松前へ渡る古い港で、明治維新前まではたいていこの港から船が出たといい、遊郭も旅館も立派なものがあった。泊まった宿は元は遊郭か料理屋だったという。蒸し暑さに寝つけず、語り手が小用に立って階段の下まで来ると、下の間の奥に人が茫然と立っている。泊まり客かと思ってよく見ると、顔は青ざめ、肉が落ちて骨と皮ばかり、髪はばらりと肩にかかり、目つきは絵に描いた化物のようであった。七人のうち三人までがこれを目にした。坂上君は、床の間に立てた鏡の裏に映る現象だと見きわめたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
実説妖怪新百話
『実説妖怪新百話』は、著者名の記されない明治の怪談集である。本郷駒込曙町の世外庵に住む天保初年生まれの老翁の勧めで、門下生三十六人が百物語の会を開き、武家の妻の執念、化物屋敷、狐狸の化かし、前妻のたたり、漁師の幽霊の帰宅などを、自分の見聞や親から聞いた話として順に語る。冒頭の「百物語の開筵」で会の趣向を述べ、続いて会津・三河・江州・若狭・盛岡・八戸などを舞台にした話を題ごとに並べる。