幽靈の歸宅
どんな伝承か
若狭小浜の西津という漁師町で魚商いをするお鶴が語った話。亭主の甚左は仲間と錆釣に出たまま暴風に遭い、船は一艘も帰らなかった。お鶴は鎮守へ跣足参りをし、金比羅へ茶断ちをして祈ったが便りはなく、三七二十一日目に法事を営んだ。その夕、門口に人影が立ち、見れば甚左であった。衣類は潮に浸されてしたたり、髪はざんばら、額に傷があり、顔は真っ青で、白くふやけていた。お鶴は喜んで着替えさせ家族と会わせたが、翌朝には姿が消えていたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
実説妖怪新百話
『実説妖怪新百話』は、著者名の記されない明治の怪談集である。本郷駒込曙町の世外庵に住む天保初年生まれの老翁の勧めで、門下生三十六人が百物語の会を開き、武家の妻の執念、化物屋敷、狐狸の化かし、前妻のたたり、漁師の幽霊の帰宅などを、自分の見聞や親から聞いた話として順に語る。冒頭の「百物語の開筵」で会の趣向を述べ、続いて会津・三河・江州・若狭・盛岡・八戸などを舞台にした話を題ごとに並べる。