祖父の霊に狂わされた放蕩者の孫
どんな伝承か
私の幼少の頃、同じ町に江刺家昌庵という医師がいた。裕福で人に敬われていたが、孫の弟・昌二は放蕩者で、祖父から分けてもらった財産を女や博打で使い果たした。何度も祖父を責めては金を無心し、ついには祖父の印形を盗んで金を催促し、先祖伝来の什器まで東京で売り払い、三、四千円をまとめて妻と上京してしまった。やがて昌二は『あれ、あれ、そこに』と幽霊におびえて狂乱するようになり、病院に入ると治り家に戻ると再発するのを繰り返したという。祖父の霊の報いと語り伝えられた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
実説妖怪新百話(明治期(明治9年~明治18年の事例を含む、編纂は明治中後期と推定))
『実説妖怪新百話』は江戸時代から明治期にかけての怪談・心霊現象を記録した実例集である。本書の主要なテーマは、嫉妬・怨念・執念による死霊の祟り、狐や狸による化かしと報復、そして不幸な死を遂げた者による因果応報である。特に注目される点は、妻の虐待や後妻問題に関連した怨霊現象が多数記述されていることで、嫉妬による執念がいかに強力な超自然力となるかが繰り返し示唆されている。