釣り宿の離れで絶叫した支店長
どんな伝承か
釣りでは僕が師匠格である支店長を、昨年思い切って伊豆大島へ案内した。定宿の釣り宿は主人の人柄もよく料理も風呂もよいが、釣りクラブの先輩から『あの宿は出るんだよな、それも決まって離れに泊まった日に限って出る』と聞かされていた。元町港から差木地の赤岩という磯へ向かい、支店長は四十五センチのオナガメジナを釣り上げて子どものような笑みを浮かべた。その夜は民宿の主人を交えて動けなくなるまで食べて飲み、離れに戻ると二人とも崩れるように眠り込んだ。遠くで『あーっ、あーっ』という奇声が聞こえ、目を向けると隣で支店長が苦しそうに身をくねらせ、やがて絶叫に変わって白目をむいた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
水辺の怪談2(水辺の怪談シリーズ)
『水辺の怪談2』は、釣り人たちが釣り場や釣り宿で出会った怪異を、本人の筆で綴った体験記を集めた本である。伊豆半島や南紀の磯、黒部峡谷、芦ノ湖、中禅寺湖、北海道の渓流などを舞台に、金縛り、女の霊、謎の足音、自殺のあった場所の怪などを、釣りの様子とともに語る。「海の章」と「川・湖の章」に分かれ、各編の冒頭に筆者の住まいや職業、得意な釣りを記した紹介を置く。