釣り宿の離れで絶叫した支店長
どんな伝承か
釣りでは僕が師匠格である支店長を、昨年思い切って伊豆大島へ案内した。定宿の釣り宿は主人の人柄もよく料理も風呂もよいが、釣りクラブの先輩から『あの宿は出るんだよな、それも決まって離れに泊まった日に限って出る』と聞かされていた。元町港から差木地の赤岩という磯へ向かい、支店長は四十五センチのオナガメジナを釣り上げて子どものような笑みを浮かべた。その夜は民宿の主人を交えて動けなくなるまで食べて飲み、離れに戻ると二人とも崩れるように眠り込んだ。遠くで『あーっ、あーっ』という奇声が聞こえ、目を向けると隣で支店長が苦しそうに身をくねらせ、やがて絶叫に変わって白目をむいた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
水辺の怪談2(水辺の怪談シリーズ・2000年代初期(推定))
釣り人の実話水辺怪談アンソロジー第2集。南紀白浜三段壁で声をかける白い服の女、伊豆の蛇石峠で車窓に張りつき身の上話を脳に直接響かせる女霊、箱根の戦後火葬場跡の足音、黒部峡谷の隧道の呻き、奥多摩湖畔に現れる自殺女性、豪雪で全滅した廃村の足音、渓流で足首を掴む手、河口湖の憑依と竜神の警告など、水辺の死者との遭遇譚を集める。