伊豆大島の官有馬の耳切り
どんな伝承か
馬の耳を切るのは、多くは馬を襲うギバを防ぐための禁厭だが、実際上の目的から耳を切った例もあると磯清は記す。徳川八代将軍の時代、伊豆の大島に馬や羊を放し飼いにした際、私有のものと官有のものを見分けるため、お上の馬や羊は耳が切ってあった。馬にとっては迷惑千万で、竹を削いだような耳こそ唯一の容貌自慢であり誇りでもあるのに、遠慮なく切り落とされてはただでさえ長い顔がいっそう長くなる、はなはだ馬の面目を無視した区別法ではないかと著者は嘆いている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異)
『民俗怪異篇』は、磯清が著した民間の怪異をめぐる随筆集である。馬を襲う魔物ギバとその禁厭、阿波の首切れ馬「夜行さん」、姫路城の刑部姫や猪苗代城の亀姫などの城の怪、化け猫、灯火による占い、秩父三峰の狼の信仰と狼の怪、怪談を題材とする落語を取りあげ、各地の言い伝えや古い記録を引きながら語る。序に続いて「馬の災と馬の怪」「城の主」「猫」「灯の占」「狼の噂」「落語に存在する怪談」の六篇を置き、それぞれを小見出しの短い話に分ける。