鈴鹿峠でひとりごとを言った馬
どんな伝承か
寛政年間、東海道坂の下宿の馬が土山の宿へ働きに行き、餌をもらえぬまま一夜を明かした。翌朝、鈴鹿の峠を曳かれて下る途中、馬は「一夜も食べさせられずまた山道を下るのは、空荷でも辛い」と独り言を言い、馬子は驚いて以後その馬を大切にしたという。この話は「馬がもの謂た鈴鹿の坂で」という馬子唄に残ったと伝わる。また天保五年、東海道藤沢宿の馬が荷物の付け替えで大磯の馬と出会うと、大磯の馬が重荷の辛さを人の言葉で訴え、荷主の馬子はその夜のうちに逃げ去ったという。
原典より
明くる朝鈴鹿の峠を曳ひて下ると、馬が獨言を謂つた。—— 民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異)
『民俗怪異篇』は、磯清が著した民間の怪異をめぐる随筆集である。馬を襲う魔物ギバとその禁厭、阿波の首切れ馬「夜行さん」、姫路城の刑部姫や猪苗代城の亀姫などの城の怪、化け猫、灯火による占い、秩父三峰の狼の信仰と狼の怪、怪談を題材とする落語を取りあげ、各地の言い伝えや古い記録を引きながら語る。序に続いて「馬の災と馬の怪」「城の主」「猫」「灯の占」「狼の噂」「落語に存在する怪談」の六篇を置き、それぞれを小見出しの短い話に分ける。