主君の死を告げた陣の葦毛
どんな伝承か
昔、京の公方義熙公が栗本郡まかりの里に陣を構え、そこで病に倒れた。延徳三年三月二十五日の夜、十五頭の馬を並べてつないでいた馬屋で、二番目の間の葦毛が突然人のように「今はもうかなわぬ」と口をきき、隣の河原毛が「ああ悲しや」と応じた。番をしていた馬取たちは身の毛のよだつ思いで震えたが、翌二十六日、はたして義熙公は亡くなった。著者はこの話を引き、馬は飼い主の無情を訴えるだけでなく、人より先に主の死を知ることもあると述べている。
原典より
第二間の馬屋の葦毛が、忽ち人のもの謂ふやうに、いまは叶はぬじやと謂ふと、また隣りの河原毛が、あら悲しやと和した。—— 民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異)
『民俗怪異篇』は、磯清が著した民間の怪異をめぐる随筆集である。馬を襲う魔物ギバとその禁厭、阿波の首切れ馬「夜行さん」、姫路城の刑部姫や猪苗代城の亀姫などの城の怪、化け猫、灯火による占い、秩父三峰の狼の信仰と狼の怪、怪談を題材とする落語を取りあげ、各地の言い伝えや古い記録を引きながら語る。序に続いて「馬の災と馬の怪」「城の主」「猫」「灯の占」「狼の噂」「落語に存在する怪談」の六篇を置き、それぞれを小見出しの短い話に分ける。