伐採前夜に起き直った大宝神社の大松
どんな伝承か
滋賀県栗太郡大宝村の郷社大宝神社の境内には、高さ十間ほどの大松が立っていた。明治三十九年十月の暴風雨でこれが五十度ほど傾いて危なくなったため、社掌と氏子が相談し、許可を得て村の者に払い下げ、翌年一月六日に伐ることに決めた。ところが伐採の前夜、社掌の足助貞は夢の中で、誰とも知れぬ人から、松は元どおりに起こすから伐るなと告げられた。朝になって境内へ出ると、傾いていた大松はまっすぐに立ち直り、浮き上がっていた根もすべて土に収まっていた。風のない静かな夜で、物音も縄や道具の跡もなかったという。警察や郡役所も検分に訪れ、近くの町村から見物人が押し寄せたと伝わる。
原典より
どうも尋常の雑夢とは違ったようであったので、朝早く起きて境内へ出て見ると、前日の晩方にも見た、例の倒れかかっていた大松が奇怪千万、元の如く垂直に起直っており、…—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。