濁ヶ淵に沈む黄金の鶏と六部
どんな伝承か
阿波の桑の川の上流にある濁ヶ淵には、首のない馬に血まみれの六部が乗った夜行さんが出るという。昔、旅の老いた六部が桑の川の長者の家に泊まり、手厚いもてなしに気をよくして、黄金の鶏と、一寸四方の箱に収まる魔除けの蚊帳という宝を見せてしまった。長者は欲に駆られて譲れと迫り、六部が夜明け前にひそかに発つと馬で追い、淵のほとりで斬りかかった。争ううちに長者の刀は誤って自分の馬の首を落としたが、六部も斬り殺された。その血で淵は濁り、底には黄金の鶏が沈んで、殺された日の同じ刻限には鳴き声が聞こえるという。長者の家では今も正月の餅に血が混じるとされる。
原典より
桑の川の上流の濁ヶ淵には首切れ馬の主がゐて、その背の上には血だらけの六部が乗つてゐる。—— 民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異)
『民俗怪異篇』は、磯清が著した民間の怪異をめぐる随筆集である。馬を襲う魔物ギバとその禁厭、阿波の首切れ馬「夜行さん」、姫路城の刑部姫や猪苗代城の亀姫などの城の怪、化け猫、灯火による占い、秩父三峰の狼の信仰と狼の怪、怪談を題材とする落語を取りあげ、各地の言い伝えや古い記録を引きながら語る。序に続いて「馬の災と馬の怪」「城の主」「猫」「灯の占」「狼の噂」「落語に存在する怪談」の六篇を置き、それぞれを小見出しの短い話に分ける。