袖ヶ瀧山を駆け下る左片袖の姫
どんな伝承か
阿波の袖ヶ瀧山から出る夜行さんは、左の片袖だけの大振袖を着た美しい姫で、首のない馬を走らせるという。昔、桑の川沿いの袖ヶ瀧山に、都から流れて来た公卿の一族が隠れ住んでいた。大晦日の夜更け、正月の餅をついたあとに賊の一団が押し入り、館を荒らして姫を捕らえた。そこへ正体の分からぬものが躍り込んで賊を次々に噛み殺し、闇の中で乱闘になったが、翌朝、首をずたずたに切られた馬の亡骸に寄りかかって姫も息絶えていた。以来、大晦日の夜には姫を乗せた首切れ馬が山を駆け下り、出会った者は病んで死ぬ。賊の子孫の家では今も正月の餅に血が混じるという。
原典より
それから後、大晦日の夜になると、袖ヶ瀧山から首きれ馬が走り下る、その上には左片袖の大振袖を着たお姫さまが乗つておるでなさる。—— 民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異)
『民俗怪異篇』は、磯清が著した民間の怪異をめぐる随筆集である。馬を襲う魔物ギバとその禁厭、阿波の首切れ馬「夜行さん」、姫路城の刑部姫や猪苗代城の亀姫などの城の怪、化け猫、灯火による占い、秩父三峰の狼の信仰と狼の怪、怪談を題材とする落語を取りあげ、各地の言い伝えや古い記録を引きながら語る。序に続いて「馬の災と馬の怪」「城の主」「猫」「灯の占」「狼の噂」「落語に存在する怪談」の六篇を置き、それぞれを小見出しの短い話に分ける。