離れに泊まった夜の白装束の女
どんな伝承か
釣り仲間の支店長を伊豆大島へ案内した。定宿の釣り宿は主人の人柄もよく料理も風呂も申し分ないが、離れに泊まった日に限って出ると先輩から聞かされていた。元町港から差木地の赤岩という磯へ入り、支店長は四十五センチのオナガメジナを釣り上げて上機嫌だった。その夜、離れで眠り込んだ深夜、すぐ横で「あーっ、あーっ」という奇声がした。支店長は身体をくねらせ、やがて絶叫に変わって白目をむき、畳に腕を打ちつけていた。腕に飛びつくと硬直が解け、金縛りにかかったと言う。後に聞くと、白装束で長い黒髪の若い女に馬乗りされ、首を絞められて呪詛の言葉を浴びせられていたのだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
水辺の怪談 ベスト(つり人社)
『水辺の怪談 ベスト』は、釣り人たちが海や川で出会った怪異の体験談を集めた本である。お盆の夜釣りでの金縛り、伊豆大島の釣り宿の離れ、渓流の滝壺や湖のボート、バス釣りの遠征先の宿などを舞台に、釣具店主・会社員・釣りライター・バスプロら十七人が自身の体験を一人称でつづる。「海の章」五編と「川・湖の章」十二編の二部に分け、各編の冒頭に筆者の在住地と釣り歴を記した短い紹介を置き、四人は仮名で書く。