黒島の民宿に入ってきた落ち武者
どんな伝承か
十数年前の初夏、筆者は全日本磯釣連盟の会長だった長祐吉さんに誘われ、釣り具メーカーのカレンダー撮影を兼ねて鹿児島の草垣群島へ遠征した。総勢二十数名で早朝に枕崎港を出て、筆者は四番瀬という磯で釣り、撮影も無事に済んだ。ところがその夜は船の上で泊まると聞き、会長ともども船に弱い数人は近くの黒島で降ろしてもらい、港から坂を五百メートルほど上った民宿に泊めてもらった。建て増しを重ねて迷路のようになった家だった。深夜、窓際で寝ていたNカメラマンが「つれ、つれ」とうなされ、揺り起こすと、血だらけの落ち武者のような者が窓から入ってきて自分を連れ出そうとしたと訴えた。明かりをつけたまま皆で起きていると、三十分ほどして関西の若いカメラマンが壁にもたれた姿勢のまま全身をこわばらせ、口も利けなくなった。一行は荷物をまとめて夜の坂道を港まで駆け下りた。窓の外は谷底まで落ちる崖だったという。
原典より
なお、落ち武者の幽霊がNカメラマンを連れて行こうとした窓の外は崖で、落ちれば谷底まで真っ逆さまであった・・・・・・。—— 水辺の怪談3(水辺の怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
水辺の怪談3(水辺の怪談)
『水辺の怪談3』は、釣り人が海や川、湖で出遭った怪異を、多くは体験者自身の筆で綴った実話怪談集である。東京湾の夜の一本釣り、男女群島の瀬泊まり、サイパン、北海道の夕張岳、利根川の利根大堰、大井川上流の支流などでの出来事を二十編収め、「海の章」と「川・湖の章」の二部に分ける。前半の十二編には、冒頭に書き手の居住地や釣りの経歴を記した短い紹介が付く。