男女群島の磯で体の上を跳ね回る者
どんな伝承か
2006年2月、三重県の釣り人が妻を連れて長崎県の男女群島へグレ釣りに出かけた。仲間内では、この群島で磯に泊まると怪しいものに出会うと噂されていた。荒波の難所でもあり、資料によれば明治38年と翌39年の二度の台風でサンゴ船などの乗組員ら千人を超える死者が出て、男島の東風泊には漁師の霊を慰める千人塚が建つという。二日目の夜、ノコギリという磯で竿を振っていると背後から「オーイ」と小さく呼ぶ声がしたが、妻は呼んでいないという。夜中、妻は海から上がってきた何人かに足を引かれる夢を見たと話す。続いて筆者のブルーシートを誰かがめくろうとし、五体ほどが重みもなく体の上を跳ね回って、ざわざわと話し合った。めくってみても何もいない。午前二時だった。帰宅後、妻もほぼ同じ時刻に同じ目に遭い、子どもの声を何人分も聞いていたと打ち明けた。
原典より
すると今度は、私の身体の上を誰かがバタバタと飛び跳ねるではないか。—— 水辺の怪談3(水辺の怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
水辺の怪談3(水辺の怪談)
『水辺の怪談3』は、釣り人が海や川、湖で出遭った怪異を、多くは体験者自身の筆で綴った実話怪談集である。東京湾の夜の一本釣り、男女群島の瀬泊まり、サイパン、北海道の夕張岳、利根川の利根大堰、大井川上流の支流などでの出来事を二十編収め、「海の章」と「川・湖の章」の二部に分ける。前半の十二編には、冒頭に書き手の居住地や釣りの経歴を記した短い紹介が付く。