三段壁の夜釣りで声をかける白い女
どんな伝承か
和歌山県南紀の白浜にある三段壁は、海面から30mほどの断崖で、知られた自殺の名所である。磯へ抜ける松林も首吊りが多いといわれ、入口には「命の電話」の看板が立つ。心霊を信じていなかった筆者は、春先の満月の夜、友人と大型のアオリイカをねらって崖下の磯に降りた。ほかに釣り人がいないのに気づいたころ、背後の崖に白い人影が見え、やがて女の声で釣れるかと問われた。振り向くと白い服の髪の長い女が立っており、筆者がこわばった声で答えると、女は無言で岩場の道へ戻っていった。明かりも持たず足音も立てずに降りられる場所ではない。地元には、夜の三段壁で釣り人らしくない者とすれ違っても声をかけない掟があるという。
原典より
変だなあと思った瞬間、背後から突然、「釣れますかぁ………………」という女性の声がするではないか。—— 水辺の怪談 ベスト(つり人社) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
水辺の怪談 ベスト(つり人社)
『水辺の怪談 ベスト』は、釣り人たちが海や川や湖で出会った怪異の体験談を集めた本である。お盆の夜釣りでの金縛り、伊豆大島の釣り宿の離れ、渓流の滝壺や湖のボート、アユ釣りやマス釣りの遠征先の宿などを舞台に、エサ屋の店主・会社員・釣りライター・バスプロら十七人が、自身や仲間の体験をつづる。「海の章」五編と「川・湖の章」十二編の二部に分け、各編の冒頭に筆者の短い紹介を置き、四人は仮名で書く。