天長節の式に来ていた溺死の級友
どんな伝承か
大正十一年、横浜の石川小学校で天長節の勅語奉読式が行われた翌日、四年一組の担任が、級友の石井茂男が日曜に亡くなったと告げた。ところが生徒たちは、石井は昨日の式に来ていた、銀杏の枝が折れた話をした、草履袋を振り回していた、庇の破れた帽子を糸で繕ってかぶっていたと口々に言い張った。ただ体に触った者も、様子を怪しんだ者もいなかった。石井は前々日の午後、山下町の税関桟橋で一人釣りをしているうちに水に落ちて死んでおり、翌朝父親が捜索願を出して身元が知れたのだった。生徒たちはそこで、式場で見たのは石井の影だったと知ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。