オキ笛に踊り出た陣ヶ森の狒々
どんな伝承か
宮城県加美郡孫沢村の陣ヶ森でのこと。鉄砲の名人といわれた侍、沢口覚左衛門は、文化三年九月初め、切込村の百姓源吉方に宿を取り、三里ほど山奥の陣ヶ森へ猟に出た。楢の大木の枝に身を乗せ、獣を寄せるオキ笛を忍び音に吹くと、沢の下からケタケタと女の笑い声が聞こえ、やがて茅をかき分けて巨大な狒々らしい獣が現れた。毛は朽葉色、面は赤く、長い白髪が顔にかかっている。笛に合わせて踊り狂うところを撃つと手応えがあり、獣は叫んで沢へ転げ落ちた。しかし拍子に落とした銃も獣の死骸も見つからず、祈願の末に銃だけを得て帰った。その山は魔の山として人が入らなくなったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
宮城県史 民俗編(茂木徳郎(「妖怪 幽霊」の章)・宮城県史シリーズ)
『宮城県史 民俗編』は宮城県の県史の民俗編で、ここに収めるのは茂木徳郎が執筆した章「妖怪 幽霊」である。山・道・木・水・海・雪・家など出現の場所による分類に沿って妖怪変化を論じ、幽霊とヒトダマ・死霊・生霊の観念を考えたうえで、県内の妖怪・幽霊・動物変化の伝承を郡・町村名を添えて集める。序説・本論・事例篇・参考の順に並び、序説では昭和二十四年の迷信調査と昭和三十年のNHK仙台中央放送局の調査にも触れる。