柿の木に宿った女中きみの霊
どんな伝承か
享保九年(一七二四)三月中旬、広島の浅野侯家臣・平山角左衛門が屋敷替えを命じられ新邸を普請した際、邪魔な古い柿の木を下人の幸助が切ろうとした。大工の勘太夫が霊が宿るからやめよと制したが幸助は嘲笑う。その夜、空中の声とともに幸助の体は掴み上げられ屋敷の堀へ投げ込まれた。声の主は百三十七年前にこの屋敷の主人・多賀藏人に柿を盗み食いした咎で木に縛られ槍で突き殺された京都生まれの女「きみ」だといい、角左衛門は柿の木のもとに祠を建て霊を祀った。
原典より
その夜の深更に、空中で、汝幸助今日わが事を言つたイザ此方へ出て来いと呼ばはる声もろとも、幸助の体は空中に掴み上られたが、戸も障子も閉めてあるまゝに何所から出たのか邸内の隅にある堀の中へ強く投込まれた。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。