夢に通う女の生霊を斬った男
どんな伝承か
加賀金沢に享保のころ、十兵衛という青年がいた。江戸で奉公するうち夫婦約束をした情婦ができたが、金沢に戻って商売を始め繁盛するうち、女のことを忘れがちになった。すると毎夜、夢うつつに女が現れ早く迎えに来てくれと訴える。狐狸の仕業と思い込んだ十兵衛は、現れた女に抜き討ちで斬りつけると、悲鳴とともに姿は消えた。数日後、夢に女が現れ髪を一握り握らせる。目覚めると本当に女の髪を握っており、驚いて江戸へ行くと、女は斬りつけた夜に死んでいたと知れた。墓を掘り返すと、亡骸は背から胸まで斬られ、髪も剪り取られていた。十兵衛はその場で剃髪し、女の後生を弔ったという。
原典より
然るに數日經て、夜の夢に彼の婦が現れて来て、男心のつれないことを恨み、能くも自分を斬ったことよとにらみつけ、此れをやるとて髪一握り握らせたと見て目が覺めたが…—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。