金沢の宿の三階に座る女
どんな伝承か
乃木大将が軍務で加賀の金沢へ行き、古い三階建ての宿の見晴らしのよい三階に泊まった。ところが宿の婆さんはなぜか二階に床を敷き、翌晩も同じだったので、叱りつけて三階へ移させた。うとうとすると誰かが入ってきた気配がし、有明行灯が明滅する薄暗がりに若い女がしょんぼり座り、枕元へ寄って顔をのぞき込む。跳ね起きると誰もいない。寝直すとまた現れ、その晩は眠れなかった。翌晩も同じことが続き、ついに二階へ降りた。後で聞くと、宿の主人が妻を殺して三階の部屋に縛りつけ、妻は恨みを呑んで死んだのだという。
原典より
齢若い女が悄然と坐つてゐる、ジッと見てゐると、自分の枕元へ来て、夜具越しに自分の顔の方へ鼻を寄せてゐる—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。