無人の本堂を歩く足音と鉦の音
どんな伝承か
明治末頃のことという。旧制金沢高等学校の生徒であった、ある寺の息子の青年が、冬の夜に父である和尚と向き合っていると、誰もいないはずの本堂で足音がし、鉦の音が三つ響いた。続いて庫裡との間の重い杉戸がひとりでに開き、廊下を歩く足音が近づいてくる。和尚は「今、人が死んだ」と言うと、そのまま念仏を唱え始めた。足音は廊下を庫裡へ向かい、水を使うような音がしたのち再び戻り、杉戸が閉まる音、本堂を巡る足音、鉦の音が三つして、すべてが終わった。この間、和尚は念仏を唱え続けていたという。まもなく、近隣で人が死んだとの知らせが寺に届いた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。