綿船の艫に立った久賀沖の海坊主
どんな伝承か
周防大島の浜田翁が三十前後のころの体験。当時の大島は木綿の名産地で、翁は原料の綿を岩国から運ぶ綿船に乗っていた。ある日、岩国を発って大畠瀬戸の引き潮に乗り、夜明けまでに島へ帰ろうとしたが、夜更けに風がぱたりと止み、黒く淀んだ海を櫓で漕ぎ続けた。前方に島影が見えたので碇を入れて夜を明かそうとすると、艫に大きな坊主が立ってにたにた笑っている。櫂でなぐると消えるが、今度は舳先にぬっと立ち、追っても追っても去らない。やがて鶏の声がすると坊主はかき消すように消え、気づけばそこは久賀の沖の前島だった。久賀の沖で海坊主に出会った話はほかにも多いという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。