ひとりでに川をさかのぼる位牌の舟
どんな伝承か
栃木県宇都宮市上横田を流れる川での子ども時代の体験。昭和五年ごろの洪水のあと、田川の支流の流れがゆるやかな浅瀬に、小さな舟が一隻乗り上げていた。五、六人の子どもが乗り込んで遊んでいると、誰も押していないのに舟がひとりでに少し上流へ進み、すぐにまた下り、また上りはじめた。気味が悪くなって舟の中を見回すと、小さな位牌が一つ置いてあった。深く考えずにそれを川へ捨てると、舟が勝手にさかのぼることはもうなくなったという。洪水のあとに流れてくる物を拾うのが田舎の楽しみだったころの話である。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。