飯盒を呼ぶ桜寮の古井戸
どんな伝承か
終戦から間もないころ、宇都宮市の郊外にある宇都宮地方貯金局桜寮へ一家で移り住んだ人の話である。そこは旧宇都宮師団の練兵場と兵舎の跡地だった。寮の入口のあたりに古井戸があった。井戸はほかにもいくつかあり、入寮者は炊事などに使っていたが、この入口の一つだけはなぜか使われず、つるべの金具は錆び、蓋も閉じたまま朽ちるにまかされていた。古参の入寮者によれば、兵舎だったころ、昼食後に飯盒を洗っていた兵が誤ってそれを井戸へ落とし、軍の物を失った罰を恐れて、その晩身を投げたのだという。以来、夜になると井戸の底から「はんごう」と恨みのこもった声が聞こえるといわれた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。