濡れ髪の女を乗せた人力車夫
どんな伝承か
沖縄県那覇市の辻遊廓の附近で、帰りの客を待っている人力車夫のところに、二十歳前後の女が紫の風呂敷包みを抱えてふらふらとやって来た。色の白い美しい女だったが、ぐっしょり濡れた髪が両頬に垂れていた。首里までと頼む声は蚊の鳴くようであった。首里の坂を登りつめた所で女は降り、すぐ戻ると言ったきり帰らない。車夫が訪ねると家は真っ暗で、老夫婦は誰も来ていないと言う。着物や風呂敷の様子を告げると娘に違いないという。辻の遊廓へ戻ると、その娘は今しがた息を引き取ったところであった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。