石神井の伝承
どんな伝承か
明治の初めごろの話。車夫が空の人力車を引いて川越街道を歩いていると、鈴を振るような声で呼び止められ、見なれない立派な身なりの御新造に石神井まで乗せてほしいと頼まれた。三宝寺池のあたりで降ろすと、釣りはいらないと小判を渡し、人家もない池のほうへ歩いていった。夕方に妙だと車夫が考えていると、大きな水音がした。駆けつけると御新造は大きなうわばみになって池を泳ぎ去った。車夫はへたり込みながらも家へ逃げ帰り、腹掛けの小判を出すと、うわばみのうろこに変わっていた。熊野神社の主が三宝寺池の主に会いに来たのだろうと噂されたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。