壁から出る死神の腕との一週間
どんな伝承か
昭和四十六年十一月六日の早朝、突然の心筋梗塞に倒れ、四か月の入院となった。最初の一週間は生死の境をさまよい、毎晩のように寝台の脇の厚いコンクリートの壁から真っ黒な死神の腕が伸びてきて、体をひとつかみにし、行こうと言って引きずり込んだ。真っ逆さまに落ちていく先は限りない暗黒で、上のほうがあの世へ向かう道だと分かる。そのとき自分の頭の中では大きな桃色の球が回り、長い尾が下へ伸びて臍のあたりで前後に分かれていた。死神と長く言葉を交わし、せっかくこの球ができたのだからいま死ぬわけにはいかないと言い張って、一週間ほど暗黒と行き来したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。