面会の母子に背負わせた倉庫の品
どんな伝承か
昭和十九年の春ごろ、由良港の海軍日用雑貨倉庫で倉庫長をしていた人の話である。Nという助手がいて、三歳になる息子が毎週日曜、母親に手を引かれて面会に来た。倉庫長はNの妻にねんねこ半纏を持って来させ、帰りには倉庫の木綿の布で子を背負わせ、袖には石鹸やマッチなど手近な品を忍ばせてやった。門番の目には父親に会いに来た健気な母子としか映らなかったが、見つかっていれば大ごとだったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。