夜間演習の斥候と行水の娘
どんな伝承か
滋賀県高島郡今津町の話。大正十年七月の夕方のことである。郷庭野で夜間演習の時、斥候長として民家附近を偵察していると、一軒の農家の軒下で娘が行水をしていた。不意の闖入に驚いた娘は大声でオカッチャーンと母を呼んだ。母は蛇の目傘を広げて渡し、しゃがんだ娘は裸のまま盥の縁へ傘の柄を持って、兵隊のいる方へ回した。こちらは目の毒、娘さんには気の毒と、諦めて実敵の捜査に方向を変えたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。