長崎から国元の家老に子を託す霊
どんな伝承か
維新前、柳川藩士の松尾某は外国船警固の組頭として長崎へ出張した。彼には知恵の遅れた一人息子があり、国元に残すのを深く案じていた。ある夜、登城した家老の立花が、昨夜子の刻すぎに松尾が寝所に来て、息子をよろしく頼むと言うので引き受けたが、長崎にいる者が来るはずはないと語った。もう一人の家老瀬原も、同じ刻限に寸分違わぬ松尾の訪問を受けていた。のちに届いた書状で、松尾が死んだのはまさにその夜その刻だったと分かり、二人は子を思う心が魂を引き寄せたのだと悟った。
原典より
書状を見れば死せし刻限は、前夜両氏が其の夢を見たると同じ日同刻なれば—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。