銀三貫目を返しに来た船頭の霊
どんな伝承か
元文年間の九月二十三日の夜更け、若狭の常神村にある宗徳寺の住職仙霊和尚が灯の下で書物を読んでいると、一人の男が入ってきてひざまずいた。小島村の八郎兵衛と名乗り、主人鍋屋五郎左衛門の持ち船の船頭として航海中に嵐で沈み、自分も水夫も皆死んだと語る。預かった銀三貫目が手元に残っているので、和尚から主人へ届けてほしいと願い、露のように消えた。翌朝和尚が檀家へ渡ろうとすると、重い物が艪に掛かった。開けると往来切手と銀三貫目、昨夜の男と同じ着物が出てきたので、和尚はそれを身内の九郎兵衛に渡した。
原典より
主人に申譯ないことであるが、預つた銀三貫目が懐つてゐるので、其れを和尙様の手から主人へ届けて頂きたいと祈り、露の如くに消え去つて仕舞つた。—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。