差出人のない葉書が告げた住所
どんな伝承か
姉が亡くなって二週間目の朝、一番の配達で一葉の葉書が届いた。筆の端で書いたような、男とも女ともつかない拙い字が、飛び飛びに置かれていた。文面は前原の住所を告げるだけで差出人の名はなく、消印は下谷局だった。前原は父が商いをしていたころ支配人格だった男で、姉を強く望んだが、大家であるため父が許さず、気まずくなって遠くへ去っていた。姉は入院中も方々へ手紙で行方を尋ねたが知れなかった。母がその番地を訪ねると、前原は一月ほど前に越してきたばかりで、誰にも知らせていないと青ざめ、死んだ姉が知らせたのかもしれないと言った。
原典より
* 先の男も吃驚* 乃木大将と深山の美人* 客に縋る娼妓の幽靈* 火を起し湯を沸す幽靈* 行司の見た幽靈* 新俳優の見た幽靈* 貞女の幽霊と勝四郎* 三人見た白い手の幽靈* 他女の體に…—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が昭和十三年に編んだ幽霊譚と幽霊論の集成である。葬送の習俗や海外の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜の作用による幽霊の説明、乃木大将や許斐大尉の見た幽霊などの実話、古典や伝説に現れる男女の幽霊・怨霊・生霊、幽霊写真、化物屋敷、霊界通信を集める。三篇に分かれ、第二篇は幽霊を男女・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・食物に縁ある幽霊・前知らせなど八項に分類し、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。